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宇宙空間の炎 その奇怪な様子

重力ゼロにおける燃焼実験の驚くべき結果

2012年11月26日月曜日

自分を手術して生き延びた8人の人々

Esther Inglis-Arkell -  Nov 21, 2012 10:30 AM




自由の身になるために自分の手足を切断した人がいることはよく知られている。話としてはこれでじゅうぶん怖い。でも、自分を手術しなければならなかった人についてはどうか?自身に苦痛を与えつつ、同時に冷静な頭で手術を施さなければならないのだ。実際にこういう人がいるから恐ろしい。理由は様々だが、自分自身を手術した8人の人たちを見てみよう。


人はときに困難にぶつかり、不屈の精神と勇気で立ち向かわなければならないことがあるだろう。しかし一方で次のような揺ぎない主張がなされることもある。
「ノー・サンキュー、死なせてくれ」
セルフ手術をするなら死んだほうがマシな気がする。もがき苦しむほどの激痛を自分に与え、なおかつ熟練した手つきで精密に自分を切り刻まなければならない。それもかなりの長丁場だ。このような恐ろしい状況の中でそれをやってのけた人々がいる。そんな人たちのほんの一部を紹介する。




YouTubeで頭部手術


ドウェイン・ウィリアムズには健康保険も手術のための貯金もなかった。事故で頭に腫瘍ができて鉄橋のケーブルのように神経が見えている。彼は頭部をダンボール用のカッターで切り取るだけでは気が済まず、録画してYouTubeに流した。手術はほんの数分で終わったが完治するのに数週間かかった。ドウェインは「ハッピーな結果に終わった」とレポートしている。YouTubeのコメンターたちも喜びを分かち合った。でもほんとうにそれでよかったの?




自分で自分のネジを外す


午前2時。もしあなたが酔っ払っていたらどうか私のアドバイスを聞いてほしい。
「それをやめろ。いや、オレは"それ"がなんなのか知りたくない」「上司や母親、異性のパートナーにメールするのはやめておけ」「裸で川に飛び込むな」「ebayの入札ボタンをクリックしてはいけない」「足首に埋まったネジを外そうとするな」
悲しいことにアドバイスを書くのが少し遅かったようだ。22歳のこの男は酔っ払って外出し足に怪我をした(同じ目に会ったことがあるって?)。治療を受け彼の足は6本のネジと金属プレートで固定された。やがて彼はこれらの物体のせいで痛みを感じていることに気づき、削除すべき事柄としてウェイティングリストに載せた。ある夜、彼はついに決心した。ウェイティングリストを地獄に追いやり、ショットグラスを5つ用意し、出産する妻をもつ古き時代の開拓者さながらにお湯を沸かし始めた。彼はポケットナイフと六角レンチ(これはIKEAのネジ回し基本セットの一部だ)と注射針を消毒した。そして、以前手術したときに残った傷を目印に足首をスライスして、切り開いた。6本埋まったネジのうち5本を取り除いた。でも最後の1本は抜くことができなかった。彼はしぶしぶウェイティングリストを復活させることにして、自分を縫いはじめた。




セルフ去勢


「70年代後半はイケてる」という風潮が一部にあるがそれは幻想だ。少なくとも一人の人間については確実にそう言える。ある日のこと、22歳の男が病院によろめきながら入ってきた。手にはその病院の患者の手術のために書かれた腹部外傷についての手書きのインストラクション・シートを持っている。彼は座らずに、シートになにか書き足している。ああ、どうやらこのシートは彼のためのものだ。彼は自分のお腹の中を調べて副腎を整形しようと計画を立てたのであった。8時間におよぶセルフ手術のあとはやはり疲れた様子だった。そして自分の肝臓を引っぱり出すのは予想以上に痛いということがわかり、途方に暮れていた。なぜ彼は自分でひっぱり出せると考えたのか?それは以前にもセルフ手術をして、しかも成功しているからだ。彼は自分の性欲のファンではなかったので、そのことについていつか処置を施そうと決意していた。2つの病院から「睾丸摘出手術」を拒否されると、彼はリドカインを用いてその部分を麻痺させ、8時間にわたって作業を続けた。それから傷口に包帯を巻いて近くの病院に縫合してもらいにいった。




頭部穿孔(トレパネーション)



このタイプの手術をした人たちはあまりにたくさんいるので、一人だけ取りあげるのはほんとうはフェアではない。頭部穿孔はもっとも古い手術のひとつだが、通常は命に関わる病状でない限りは使われない。頭部穿孔の魅力をいちばんよく知っているのはおそらくアマンダ・フィールディングだろう。彼女は1970年代にいい加減うんざりしており、鉄分ダイエットは味気ないしビタミンのサプリメントはヒッピー向けだとの判決を下した。27歳の時だった。友達が最近になって頭部に手術を受けたと知ったとたん、彼女は髪の毛をカットして、目に血が入らないようにゴーグルを装着し、歯医者が使うドリルで頭に穴を開けた。それからというもの彼女は議会に駆け込み、頭部穿孔がいかに魅力的であるか壇上で演説をし、頭部穿孔の利点について証明する研究機関の設立と運営にあたった。










銃弾をえぐり出す


デボラ・サンプソンは7月4日にすべてのアメリカ人(イギリス人も、たぶんね、悪口を言いつつ)が感謝を捧げるべき人物のひとりだ。彼女はマサチューセッツ州の大陸軍に仕えて戦っていた。女性が1700年代に前線で戦っていたなんて聞くと、マサチューセッツのリベラルさに驚く向きがあるかもしれない。しかし勘のいい読者ならなぜデボラがなぜ自分で手術をしなければならなかったのか気づくだろう。彼女は太腿を撃たれたが、ドクターに女であることがばれて危険な戦地から追い出されるのをおそれた。彼女は病院から抜け出し、女であることに中指を立てるまでもなく、ペンナイフで銃弾をえぐり出して戦場へ舞い戻っていった。だが不幸にもまたもや傷を負ってしまった。彼女なら巨大なクマでも恐れをなして許しを乞うくらいの勢いで、尖った木の切れ端かなにかで自分の傷を治してしまったことだろう。しかしこんどは有能な医者が彼女を見つけ、悲劇的な事件として扱った。ドクターは彼女を治療しただけでなく、重症の「女性」であると診断、彼女は家に送り届けられた。正体がばれてしまったが軍人恩給はきちんと支給された。




腎臓結石の除去


この話もとうとう水着で隠しているエリアの話題から抜けだしたか、と思ったら大間違いだ。次に話すのは1600年代にヨハネス・レテウスが行った世にも恐ろしいセルフ手術。不幸なことに彼にはニワトリの卵サイズの腎臓結石があったが、それは伝統的な方法で取り出されたのではない。極度の苦痛ののちに彼は弟にナイフを手渡し慎重に会陰をスライスしてもらった(注意:googleで”会陰”と検索しないように。絶対にだ)。2本の指を突っ込んで切り口から石を取り出した。そして地元の医者に来てもらい、おそらく泣きながら、縫合してもらった。




局部麻酔で盲腸を摘出


病院で外科医のチーフでいるメリット、それは自分の雇ったスタッフがなんでも言うことをきいてくれることにある。彼らは急患が出ない限りはオフィスに乱入してくることもないだろう。つまり、これがチーフ外科医であると同時に患者でもあることの利点である。エヴァン・オニール・ケインは盲腸摘出のようなさほど重要でない手術に対しても、世間はきちんと意識を向けるべきだと考えた。この手術では局部の痛みを和らげるくらいしかやることがない。なので彼は自分に局部麻酔を注射して、盲腸を掘り出すべく腹を割いた。一番の問題は切開するときになかなか自分の腹部を見ることができないということだった。これに対してはふつうの患者よりもたくさん転がりまわることによって解決した。手術を受けるときには「安静にしてくださいね」と言われるが、この理由がわかりはじめた。というのも腹の中から腸がもぐら叩きゲームのあの動物のようにひょっこり飛び出していたからだ。ドクターは腸を元の場所に戻して手術を続けた。経過は順調だったので、十年後、こんどはヘルニアの手術を自分に施すことにした。




セルフ帝王切開


ショットグラスを3つ空にした後ならどんなことができそう?テーブルの上でダンスを踊るくらい?もしかしたらカラオケでハメを外したり、ナンパして誰かを部屋に連れ込でしまうかもしれませんね。それでもきっと自分の腹を切って死と戯れたりはしないはずだ。しかしイネス・ラミレス・ペレスはそうではなかった。他に選択肢がなかったのも事実だ。それは夜勤中の出来事だった。一番近くの病院でも50マイルは離れていてそこまでたどり着く手段もなかった。彼女は正しい部位を見つける前に、練習として2回腹を切った。そして1時間奮闘し赤ん坊を取り出した。歴史的な展望としては、帝王切開(cesarean)は古代ローマのカエサルの時代から知られていた。しかしカエサルは帝王切開で生まれたわけではない。この方法が安全だと考えられたのは1500年代に入ってからである。その頃でさえ4人中1人の女性しか生存することができなかった。帝王切開がほんとうに安全な方法となったのは現代においてである。もしあなたが自分の腹をカボチャのように彫ったら、必ずや悲劇が訪れ、おバカなことをした見返りに、数千年にわたって蓄積された医学知識の有難味を教えてくれるであろう。イネスは赤ちゃんが元気だと確かめると、もうひとりの子どもに看護師を連れてくるように頼み、縫合して包帯を巻いてもらった。母子ともに今日でも健康に暮らしている。




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訳註


元記事)
Eight people who survived by performing surgery on themselves
http://io9.com/5962062/eight-people-who-survived-by-performing-surgery-on-themselves


人名)
ドウェイン・ウィリアムズ - Dwain Williams
YouTubeの該当の動画は削除されていました。

アマンダ・フィールディング - Amanda Feilding
手術の映像記録や彼女をモデルにした映画が残ってるそうです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Amanda_Feilding

Deborah Sampson - デボラ・サンプソン
独立戦争で活躍したジャンヌ・ダルクのような英雄。
http://en.wikipedia.org/wiki/Deborah_Sampson

ヨハネス・レセウス - Johannes Lethaeus

エヴァン・オニール・ケイン - Evan O'Neill Kane

イネス・ラミレス・ペレス - Ines Ramirez Perez


ワード)
リドカイン
広く使われている麻酔剤。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%89%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%B3

頭部穿孔、トレパネーション ※閲覧注意
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A0%AD%E9%83%A8%E7%A9%BF%E5%AD%94

2012年11月23日金曜日

宇宙空間の炎 その奇怪な様子

 

 

重力ゼロにおける燃焼実験の驚くべき結果

By Ker Than - Smithsonian magazine, December 2012

宇宙での炎の擬似カラー合成画像。明るい黄色は燃料の滴の軌跡。燃えると圧縮され緑の煤煙を残す。





ISS国際宇宙ステーションで行われた最近の実験で、宇宙空間の炎は地上の炎よりも予測しにくく、より危険なものであることがわかった。「実験をしていると」と航空宇宙エンジニアのダン・ディートリッヒは語る。「そんなことはあり得ないってことが目の前で起きるんだ」


炎が私たちにとっていまだに驚異的な存在である、この事実こそ驚くべきことだ。なぜなら燃焼という現象は人類にとって最古の化学実験であり、しかも酸素・熱・燃料といった3つの基本要素しかないからだ。


地球上で炎が燃える様子をみてみよう。燃焼が起こると周囲の空気は温まって膨張し、密度が低くなる。重力によって、温度がより低く密度がより高い空気が炎の基の方に引き下げられる。これとは逆に、温かい空気は追いやられて上昇する。この対流により新鮮な酸素が炎に供給され、燃料が尽きるまで燃え続ける。炎のティアドロップ型の形と揺らめきは、上昇する空気によってもたらされている。


しかし宇宙空間では、重力が固体や液体、気体にじゅうぶん働かないために奇妙な現象が起きる。無重力状態では温められた空気は膨張するが上昇はしない。炎は酸素の拡散により持続する。というのも酸素分子がランダムに炎に流れ込むからだ。上昇気流がないために、微小な重力状態における炎はドーム形状または球状になり、酸素がわずかしかないので不活発でのろのろしている。「無重力空間で紙に火をつけると、炎は紙の端から端にゆっくり這っていくよ」とディートリヒは言う。「宇宙空間の火はほんとうに奇妙だよ。宇宙飛行士はめちゃくちゃ興奮しながら実験してるんだ」


気まぐれな性格の地上の炎に慣れ親しんでいる私たちにとって、宇宙の炎は不気味に静かだ。でも宇宙の炎は少ない酸素でより長く燃え続けることができるので、より粘り強い性格の持ち主だということができる。


NASAは応用試験を実施している。科学者はどの素材が宇宙で燃えやすく、したがって使用を避けるべきなのかを研究したいと考えている。実験によれば、宇宙ステーションにあるガスを吹きつけるタイプの消化器は、地上でよりも効果が少ないということだ。これは空気(と酸素)を炎に送ることで燃料を供給してしまっているためだ。

球状の物とフラットな物で炎が拡がる様子を比較する実験などを通じて得られたデータは、地上での炎と燃料の振る舞いについて理解を深める助けになるだろう。私たちが地上で利用するエネルギーの75%は物を燃やすという形態に由来している。


とくにNASAの科学者が興奮しているのは、今年の春に宇宙で観察された燃焼の、応用の可能性である。これは初めて発見された類例のないタイプの燃焼で、ある種の液体燃料を点火すると、炎が消えたあとも燃え続けるのである。この液体燃料の燃焼は2段階方式。第1の火は目に見える炎となって燃え、やがて消える。そして少し経つと燃料は「冷たい炎」として再び燃え始める。これは裸眼では見ることができない低温燃焼である。


科学者はこの現象をまだ説明できない。しかしエンジニアは、もしこの化学プロセスが地上で再現されるなら、大気汚染が少ない低温燃焼のディーゼルエンジンの開発に結びつくだろうと話している。


NASAの研究員ポール・ファーカルは、微小重力環境での実験は「よりファンダメンタルな視点で」炎に潜む力学を研究することができる貴重な体験だと述べている。地上における燃焼のプロセスは「重力によって隠されている。少なくとも複雑化されている」のである。




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訳註


元記事)
In Space, Flames Behave in Ways Nobody Thought Possible
http://www.smithsonianmag.com/science-nature/In-Space-Flames-Behave-in-Ways-Nobody-Thought-Possible-179731321.html#

人名)
ダン・ディートリッヒ - Dan Dietrich
ポール・ファーカル - Paul Ferkul

2012年11月22日木曜日

なぜイギリス人の歌手はアメリカ風に歌うのか?





悪いのはビートルズ。

By L.V. Anderson | Posted Monday, Nov. 19, 2012, at 5:59 PM ET




最新のボンド映画「スカイフォール」でイギリス人シンガー、アデルが同名の曲を歌っている。ひどいロンドン訛りでしゃべるくせに、歌っている時の声はイギリス人というよりもアメリカ人だ。なぜイギリスのボーカリストたちはかくもアメリカ風に歌うのか?


それはロックやポップのミュージシャンはそうあるべきだとみんなが思うからだ。1960年代にクリフ・リチャードやビートルズ、ローリング・ストーンズがレコーディングを始めた頃から、イギリスのポップシンガーはアメリカ式の発音を真似してきた。イギリスの多くのミュージシャンは「アフリカ系アメリカ人の母音の発音」に影響を受けており、これは黒人ブルースや、チャック・ベリーのようなロックンローラーによるものだ。しかしこの似非アメリカ式発音、たいていはアメリカ各地の様々な方言の寄せ集めといった感じだ。イギリス人がアメリカ式発音を真似る際には母音と"R"の発音を借用している。つまり単語の中に"R"がくると必ず発音しているのだ(これとは反対に、イングランドの方言では音節の最後に置かれた"R"は省略することが多い)。ときにイギリス人は、アメリカ風に歌おうとすると"R"をやりすぎてしまうことがある。'Till there was you'を歌うポール・マッカートニーがいい例だ。この曲では"saw"が"sawr"に聞こえてしまう。



言語学者のピーター・トラジルはブリティッシュ・ロックにおける"R"の発音について長年にわたって調査してきた。そしてビートルズの"R"の発音が、英国と米国両方の発音の特徴を取り入れたトランス−アトランティックサウンドが1960年代を通じて当たり前になっていくのにしたがって減少していることを発見した。新しいジャンルが発展するとトレンドも逆方向を進んでいく。グリーンデイのビリー・ジョー・アームストロングのようなアメリカン・ポップパンクのボーカリストは、むしろその産みの親であるクラッシュのジョー・ストラマーに近いイギリス風のアクセントを採用している。現代の歌手はジャンルによっていろいろな発音を取り入れている。たとえばオーストラリア人であるキース・アーバンは、アメリカ南部の特徴的なアクセントでカントリーを歌っている。最近の研究では「ニュージーランドのポップシンガーにおけるデフォルトのアクセント」は彼らが意図をせずともアメリカの母音を利用していることを示唆している。これは現代の歌手が米国のポップシンガーやそのイミテーションを聴いて育ったせいかもしれない。


歌手がジャンルにあわせてボーカルスタイルを真似しようとしなくても、「方言は音楽において消えてゆく」傾向にある。イントネーションはメロディに、母音の長さは音の長さに、そして声の拍子は曲のリズムにすり替えられていく。歌う時のアクセントに関しては、母音と"R"の発音がより重要になっている。




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訳註


元記事)
Why Do British Singers Sound American?
http://www.slate.com/articles/arts/explainer/2012/11/skyfall_theme_song_by_adele_why_do_british_singers_sound_american.html


関連リンク)
「アフリカ系アメリカ人の母音の発音」
http://linguistlist.org/topics/ebonics/
「ニュージーランドのポップシンガーにおけるデフォルトのアクセント」
http://aut.researchgateway.ac.nz/bitstream/handle/10292/962/GibsonA.pdf?sequence=26
「音楽において方言は消えゆく」
http://david-crystal.blogspot.com/2009/11/on-singing-accents.html


人名)
ピーター・トラジル - Peter Trudgill
http://en.wikipedia.org/wiki/Peter_Trudgill

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